やさしい流体力学                  

水中で受ける力(静止時)
重力
水中においても陸上と同じ大きさの重力がはたらく。重力は体の各部分ごと重量に等しい下向きの力としてはたらく。重心はこれら各部の重力の合成として考えられ、体重に等しく下向きにはたらくある一点(作用点)をいう。姿勢が変化すると位置も変わる。
水圧(浮力)
水中の物体はその表面に深さに応じた水の圧力(水圧)を受ける。水圧は物体の表面に垂直にはたらくが、より深い所にある面で大きく、浅い所にある面で小さい為合成力は上向きにはたらく。この合成された力を「浮力」といいその作用点を「浮心」と呼ぶ。浮力の大きさと浮心の位置は水中の物体の形と大きさによる。
浮力の大きさ
 ”アルキメデスの原理”により水中で静止している物体にはたらく浮力の大きさは、物体と同じ体積の水の重さに等しい。

 体積60リットルの人が水中にある場合、浮力は60Kg。体重が57Kgだと浮力が57Kgのところで釣り合う。つまり水面下の体積が57リットルのところで静止する。(出典 「水泳コーチ教本」 日本水泳連盟編 大修館書店) 
比重 
重力と浮力の関係を比重といい、重力が大きいと物体は沈み、浮力が大きいと物体は浮上し、水面に浮かぶ。その後物体の一部が水面上に出ると浮力が減少し重力と釣り合ったところで静止する。比重は(物体の重さ)/(物体と同じ体積の水の重さ)で求められ、1より大きいと沈み、小さいと浮く。
人体各部の比重
    骨=約2.0 筋肉=1.06 脳=1.04 脂肪=0.94 
    息を吐ききった状態=1.0以上(沈む)
    息を最大に吸った状態=1.0以下(浮かぶ)
    身体組成(脂肪、筋肉、骨格の比率)の違いにより性差、個人差がある。
水中で受ける力(移動時
抵抗(抗力) (*) 追記
@形状抵抗  水中を物体が移動するとき物体の前面が水を押しながら進む。その反作用として水の抵抗を受ける
A造波抵 水面上を移動するとき波がおきる。この波もエネルギーを奪い抵抗となる
B摩擦抵抗 物体の表面と水の摩擦によっても後ろ向きの抵抗がおきる
C
うず抵抗(*)水中を物体が移動するとき物体の後方にうずができる。これは移動することによって生ずる空洞を埋めようとする水によって生ずる。空洞に集まる水をともに物体も引き戻される。
抗力の大きさ
移動速度、物体の形、物体の向きに依存する。流体力学では抗力(D)は以下の式で表される。
D=1/2*ρ*Cd*S*V2
ρ( ロー):液体の密度
Cd:物体の形や向きに依存する定数で、抗力係数。人の場合、 水中姿勢により抵抗値は大きく異なる。また姿勢保持能力によっても差が出る。
S:物体の移動方向からみた投射断面積
2:抵抗は速度の二乗に比例する(速度毎秒1Mのとき抵抗は約3Kgだが速度が2倍の毎秒2Mになると10kg以上(3Kg*22)になる!)
揚力
細長い物体や扁平な物体が移動方向にある角度(迎え角)を持って水中を進むと移動方向に垂直な力を受ける。この力を揚力という。これは物体が移動方向に対しズレをもつからで、移動方向に平行な力を抗力といい、垂直な力を揚力という。揚力の大きさも抗力と同様の式で求められ、速度の二乗に比例する。
推進力
推進力は泳者が手足を動かして発生させる力で、水から受ける力と平行な成分である。それは@水の抵抗を利用するものA水の揚力を利用するもの---がある。しかし実際は手足を動かしている各局面でどちらの力が大きく作用しているかということである。
水の抵抗を利用した推進力
手足を進行方向と逆に動かすことにより発生する水の抵抗を利用する。水を後方に押し出した時、反作用として体を押し返す水の力を利用する(ニュートンの第3法則)。クロールのプルの場合、フイニツシュの時、手の迎え角はほぼ90度であり、ほとんど抗力を利用している。抗力を利用する場合、手足の移動速度は泳速より大きくなければならない。等しいと推進力は生まれず、小さいと減速する。
インピーダンスマッチング
手足のかくスピードは水の状態に合わせて働きかけることが必要。これを「インピーダンスマッチング」という。最初はゆっくり、次第に早くかくことが重要。初めから早くかくと「から掻き」になってしまう。
水の揚力を利用した推進力
手足を体の進行方向に対し、垂直(左右、または上下)に動かし推進力を得る。これはプロペラやスクリューの原理と同じで、手足を動かした方向と垂直な方向に水の力がはたらく(揚力)のを利用する。より大きな推進力を得るには揚力が大きく抵抗の小さな適度な迎え角を作りできるだけ早く手足を動かすとよい。平泳ぎのプルは揚力利用が主体である。
その他の力
手足を動かして泳ぐ動作をするとき、移動方向に平行な力が推進力として働くわけだが、別方向に働く力の中でも有用なものがある。ローリング(回転)やピッチング(上下動)の動きである。ローリングは呼吸の為やリカバリーをスムーズにしより大きな筋肉をはたらかせる為に必要である。ピッチングも抵抗を増大させるが、より大きな推進力を得るために利用される。(うねりを利用した平泳ぎ、バタフライなど)
重心、浮心の位置と推進力の関係
一般に重心と浮心の位置を比較すると頭に近い方に浮心、足に近い方に重心があります。したがって、伏し浮きをした場合、次第に足から沈んできます。ここで足にプルブイをつけるとどうでしょうか?浮心が下がって足が浮き、泳ぎやすくなります。体が水平になることから、水の抵抗が減り泳ぎやすく、またキックで下半身を上げる必要がないので疲れないハズです。つまり推進力には重心と浮心の位置が関係します。
 重心と浮心が近い、出来れば重心が前にあったほうがラクに泳げ、なおかつ推進力を生み出すわけです。その姿勢を作るには次のように練習します。
@けのびした後、胸の位置を低くし、頭を起こし気味にする(額の生え際に水面があたるくらい)
  (頭を上げるのは大きな浮力を受ける頭を上げて浮心を下に下げるため)
A下半身、とくに腰の位置を高く保ち、足先を水面に出す
  (足先が上がらないときは2,3回ドルフインを打ってみる)
Bキックは足が下がらないキックを (2ビートキックがベスト)
  (2ビートキックが出来ない場合、水面を軽く打つキックかプルブイを付けて足を下げない)
この”
前傾姿勢”があらゆる泳法に共通して推進力を生み出す重要なポイントになります。

(出典 「楽しい水泳の流体力学」 平木茂子編 恒星社厚生閣